『ヒプマイ』がアニメ化したら、どんな風になるんだろう?
ラップバトルを題材にした音楽原作プロジェクト。そんな異色のスタートを切った『ヒプノシスマイク』は、ネットを中心とした展開で瞬く間に一大ムーブメントに。映像化についても多くの妄想が繰り広げられることとなりました。
今では女性向け界隈では知らない人はいないと言ってもいい知名度を得た『ヒプマイ』待望のアニメ作品。それが『「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」Rhyme Anima』です。
ラップバトルという本来は音声のみの戦いを、映像でどう表現するのか。ここまで物語を深めてきたキャラクターたちが、どのような活躍をしてくれるのか。多くの期待と疑問を背負った状態で、『ヒプマイ』のアニメ(※以下『ヒプアニ』)はスタートしました。
音楽を映像で表現することに挑戦した本作が体現した総合的な魅力を、全体の感想と共に解説して参ります。
ファン垂涎の”動く”キャラたち
『ヒプマイ』は展開開始(2017年10月)から3年間、キャラクターがほぼ動くことがなかったコンテンツとして有名です。
コミカライズや2.5次元舞台は存在しているものの、オリジナルであるアニメ絵のキャラクターが動くことは全くありませんでした。長らくの間「PVでマイクを掲げるところが絵の動く唯一のシーン」とネタにされていたほどです。
「推しが喋って動いている」という事実が、『ヒプマイ』界隈では既にセンセーショナルなものに違いありません。“親の顔より見た立ち絵”のテイストを維持したままに動き回る彼らの姿は、それだけで多くの人の心を打ったのではないでしょうか。
特に『ヒプアニ』は原作絵の美しさをでき得る限り尊重する方向で作画されており、全体通して美しい顔面を堪能することができます。脳裏に焼き付いた彼らが、そのままの姿で”生きている”ことを実感させてくれるのです。
初期から存在するイケブクロ・ヨコハマ・シブヤ・シンジュクの4ディビジョン12キャラクターが全員登場した1話では、ここまで作品を応援してきたファン全員が同様の感動を覚えたことでしょう。これこそが「自分たちの応援が形になった」と、最も強く思える瞬間なのですから。
ラップ演出から見える原作リスペクト
『ヒプアニ』はキャラクターの美麗な作画も印象的ですが、各ディビジョンごとに展開されるラップシーンもまた壮観の一言です。アニメらしい非常に軽快で動きのある映像として体現されました。
元々『ヒプマイ』はYouTubeに上がった音楽PVを軸に据えたコンテンツとして始まり、今なおアンセムソングではその展開方法が維持され続けています。
曲のカッコ良さもさることながら、実は静止画と字幕(+一部声優の映像)を組み合わせたスタイリッシュな動画で多くの人々を魅了してきたコンテンツでもあるのです。動画のセンスの良さと演出力の高さは、素材不足を一切感じさせないクオリティで毎回創られてきました。
アニメ化において、ラップシーンがこの動画に順ずるクオリティであるのかは非常に重要なポイントでした。言ってしまえばPVは『ヒプマイ』の映像に関する唯一最大のイメージなわけですから、それを破ることはファンを大きく失望させかねないものだったと言えるでしょう。
そして今回のアニメは、その部分が非常に丁寧に練り込まれていることを1話で決定的な事実としてくれました。
ラップシーンはアニメ絵と完全に同一視できるクオリティの3Dで表現されており、音楽に適合した大変にアクティブで爽快感のある動きを実現。毎秒一時停止しても見えるものが変わるほど、見応えのあるシーンに仕上がっています。
さらに印象的なリリックはPV動画同様にしっかりと字幕で表現。言葉の強さが重要となる『ヒプマイ』では、通常の音楽作品以上にそのリリックが強い意味を持ちます。それが動きに合わせて聞き流れて行くだけでは、この作品の本当の良さは伝わらないでしょう。
アニメでは奥行きのある字幕表現が可能となったことで、リリックの表現力も飛躍的に向上。どこがどのように強烈なフレーズなのか分かりやすいのはもちろん、しっかりと目視できるパンチラインは、見る者に確かな高揚感を与えてくれています。
これらの表現が「元々存在するPV動画の質感をしっかりとリスペクトしたものである」ことは確実で、ファンであれば誰もが感じることができるレベルの表現なのも確かです。
元々のファンであれば今までの『ヒプマイ』へのイメージの延長で楽しむことができるし、アニメで初めて『ヒプマイ』を知った人たちもまた、音楽PVを見た時に齟齬なく作品を楽しむことができる。
アニメのラップシーンはファン向けとしても導入としても妥協ない内容で彩られており、製作陣のコンテンツへの愛と敬意を感じさせてくれます。
これだけでも『「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」Rhyme Anima』が、一大コンテンツのアニメ化として非常に理想的なものであることが伝わってくるようです。
[ヒプノシスマイク動画情報]
『ヒプアニ』をどうしたいのか
『ヒプマイ』と言えば「ラップバトルで人が倒れる」「ラップで味方の体力が回復する」など、常人の頭では理解が追いつかない設定も魅力の1つ。
攻撃手段としてラップを駆使するのが当たり前となっており、「君らも男ならラップできるだろう?」は最早伝説の名(迷)台詞となって界隈の内に外にと広まり続けています。
それでいて「全ての武力が廃絶された女尊男卑の世界」「抑圧されている男性側をフィーチャー」「政治権力との戦いもテーマの1つ」などアングラな世界観を大事にしているのが特徴的で。「真剣に楽しむべきなのか笑って良いのかよく分からない」というトンチキな作品感も、スマッシュヒットの要因となりました。
CDのドラマトラックでは、急にラップが始まって急に敵が悲鳴を上げて倒れるという場面も少なくなく、当時からのファンには「これどうやってアニメにするんだ…?」と顔を顰めてしまった方が大勢いるでしょう。
実際に『ヒプアニ』は前項の通り、「どんな映像になるのか」を想像できるヒントが全くない作品。どうとでもなるように思えるし、どうとでもできるように思える状態で、ファンは第1話の放送を心待ちにすることになりました。
ただただストレートにラップバトルをするスタイリッシュな作品にすることもできるだろうし、ラップバトルに妙な演出をつけたトンチキ映像アニメにすることもできる。正直、キャラが幸せそうに活躍するところが見られればそれはそれで…という方もいるかもしれません。
そんな数多ある可能性の中から、どの道を突き進むのか。関係者とアニメ製作陣は、『ヒプアニ』をどうしたいと考えているのか。その方向性を見ること自体が、最初の楽しみになっているとさえ言えました。
では次項からは、蓋を開けてみたら何が待っていたのかに注目して行きましょう。
何故か爆発する
アニメ初見の人「『ヒプマイ』ってこんな作品だったんだ」
往年のファン「『ヒプマイ』ってこんな作品だったんだ…」
1話を見終えた全ての人が、同じ感想を抱いて固まってしまう。そんな衝撃的な演出が我々の眼の前に体現されました。
OPの時点で「なんか物理的に攻撃している人がいない?(※主にヨコハマ)」と突っ込まざるを得ない映像を目の当たりにしたことで「何となく察しはついた」ものの、いざアニメが始まってみるともうそこには「武力廃絶とは何だったのか」以外に言うことがないトンチキ映像の数々が。
30人以上の暴漢を無傷で蹴散らした超絶ラッパー イケブクロの山田一郎を皮切りに、ミサイルによる集中砲火を浴びせるヨコハマの毒島メイソン理鶯。謎の円盤から触手攻撃を行い、果ては雷まで降らせるシンジュクの神宮寺寂雷。あまりにも恐ろしい精神干渉(?)のオンパレードです。
しかも最後には何故か爆発する。
ここまでは「※あくまでイメージです」「※全て幻覚です」で済ませて理解できなくもありませんでしたが、最後には何故か爆発する。そして爆発している理由は誰にも分からないし、誰にも答えることができない。アニメ初見の方々は間違っても「どうして爆発してるの?」とファンの方に聞いてあげないでください。
この『ヒプアニ』、TVアニメ『遊☆戯☆王』シリーズのスタッフが数多く関わっており、遊戯王の主人公の中でも人気がある特に退廃的な世界観が印象的だった『遊☆戯☆王5D’s』チームに近いことがネットでも話題に。放送当時(2008年~2011年)に様々な物議を醸したテンションを、そのまま『ヒプアニ』にも持ってきて頂けたようです。『ヒプアニ』放送開始当初Twitterでは、「今一番盛り上がっているのは遊戯王のファン」というネタ感想の他、類似点を併記したツイートや比較画像なども共有されました。
ちなみに遊戯王の可愛いカードを紹介しているこちらの記事が面白かったのでぜひご覧下さい。
ちなみに『ヒプマイ』には元々ヒプノシススピーカーという設定が存在しており、キャラクターが発現した謎の物体(?)たちはそれに当たります。これは事前にイラストなどが公開されていて、完全にアニメ発の存在ではありません。
しかしそれらが「どのように使われるのか」は全くもって未知の状態で、「そもそもヒプノシススピーカーとは何なのか」という本質的な疑問を抱えたまま約2年間が過ぎました。アニメにてスピーカーは遂にそのベールを脱ぎ、良い意味で視聴者をドン引きさせたのでした。
でも結局なんで爆発するのかは分からないんですよね。いつか分かる日が来るのでしょうか。「分かるかどうか」が分かるかどうかさえ、誰にも分からないことなのでしょう…。
マイクによる物理的ダメージの有無
ヒプノシスマイクを通したリリックは
人の交感神経・副交感神経等に作用し
様々な状態にすることが可能である
(※ヒプノシスマイク Division All Stars「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」Music Video冒頭より抜粋)
神経系を直接揺さぶることにより、一切の手を下さずに相手に攻撃することができる。「言葉を武器にすることができる」アイテムとして、ヒプノシスマイクは作品内にて開発・運用されています。
アニメにおいて今後チェックして行かなければならないのは、「どの範囲までが物理的な彼らの体験となっているのか」という点でしょう。
例えば上記した爆発は演出上はどう見ても物理的に爆発していますが、本当に爆発しているのなら直撃した相手は即死していると思われます。そうなっていないということは、少なくとも見た目ほど大きなダメージを受けるわけではないはずです。
しかしながら1話にて寂雷は「自分で患者を増やしてしまった」と言っていますし、2話ではBuster Bros!!!こと山田三兄弟のラップを受けた強盗犯は、気絶してタンカで運ばれるほどに憔悴しています。
つまり精神干渉を通すことで、ある程度までは肉体とリンクした衝撃を受けると考えるのが妥当。あとはそれが当事者にしか見られないものなのか、近くにいる人(ラップを聞いている人)は等しく感じることができる幻覚なのかも作品感に関わってくるでしょう。
何故この点に注目しておきたいかと言うと、過去に発売されたCDの一部に「キャラクターの服が破れてケガをしている」ジャケットが存在しているからです。
この「DEATH RESPECT」の衝撃的なジャケットの発表は「ヒプノシスマイクは物理的なダメージを発生させられる」事実を明らかにし、界隈を震撼させました。
ただし現在ではそれ以上の情報はなく、ラップバトルの実情は謎に包まれたまま。よってアニメがこういった物理干渉部分をどう解釈して映像化するのかは、今後の作品展開に大きな影響を及ぼすと考えられます。
「ノリ」と「テンション」を楽しむ
とは言え、上記した内容が絶対に判明するとは限りません。
もしかすると明確な基準は提示されないまま、ノリと勢いでダメージを受けたり受けなかったりするかもしれません。注意して見ても「け、結局どういうことなんだ…!?」で終わるかもしれません。むしろその可能性の方が高いとさえ言えます。
ですが最早『ヒプアニ』を楽しむことにおいて、「まるで意味が分からんぞ!!」は正当な感想となり得ると感じています。
真剣に考えたが振り回されただけで真実は分からなかった。それをケラケラと笑って、皆で盛り上がって楽しむ。この一連の流れこそ、このアニメを楽しむ上で重要だと思います。
もちろん真剣なところは真剣に楽しみ、分かったことは分かったなりに受け入れることが一番です。その過程で整合性よりも「ノリ」「テンション」を優先した楽しみ方をすれば、『「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」Rhyme Anima』は最高のアニメ体験となってあなたの記憶に残るでしょう。
前半は特に演出や描写に関するトンチキなノリを楽しむ時間が長いと思いますが、後半ではタイトル通り4ディビジョンによる「Division Rap Battle」が展開される予定です。
これらは過去に行われたファン投票の結果が直に反映されるとされており、当時を深く知る人ほどシビアな内容になることを実感しているかと思います。つまりただのトンチキノリで終わるアニメではないことは、ファンの多くが理解していると言って良い状態。
だからこそ今はこのアニメのノリと雰囲気をしっかり楽しみ、その内容に”馴染んで”行きましょう。
今はトンチキだと笑っている演出が、最終回を迎えた頃には何故か涙なしでは見られなくなる。そんな感想を共有できる、嘘みたいな本当の話が表現される可能性は決して低くありません。『ヒプアニ』はそんな他ではなかなできない体験を楽しめる作品になるのではないかと思っています。
おわりに
満を持してその幕を落とした『「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」Rhyme Anima』。
コロナ禍の影響で延期を余儀なくされ、お預けを喰らったファンの期待は最高潮に。その煽りを一心に受けることになってしまった『ヒプアニ』は、高すぎるハードルを飛び越えることができるのか。多くのファンが固唾を飲んで1話の放送を見守ったことと思います。
しかしいざ始まってみればそんなファンの不安など露知らず。誰もを納得させるクオリティとリスペクトを伴った映像作品として、画面の前にいる多くの人々を釘づけにしてくれました。ネットでも毎週多くの人がその感想を交わし合っています。
今か今かと待ち望んでいた超大作も、始まってみれば一瞬の出来事。気付いた時には終わりを迎えてしまっているものです。
その一部始終を見逃さないように、1話1話、1分1秒を余すことなく堪能して行きましょう。
願わくば最終回を迎えた時にポジティブな感想が飛び交い、ネット中が賞賛と感動の渦に巻き込まれる。そんな珠玉のアニメ作品として、『ヒプアニ』が記憶と記録に残ることに期待しています。
この感想記事が『ヒプアニ』をより楽しむための一助となりましたら幸いです。
[ヒプノシスマイク動画情報]
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